ものがたり(旧)

atsushieno.hatenablog.com に続く

「MIAUの言う『検閲』は誤り」は誤り

http://d.hatena.ne.jp/bewaad/20080417/p1

なるほど「検閲であるなんて主張は有り得ないと思っていた」ですか。この辺の意見が「"rm -rf /"は正しく動作する。だから何?」と皮肉られる理由が何となく分かります。

MIAUの見解に示される「検閲」は、もちろんより概念的な表現であり、id:atsushieno:20080407 で芦部「憲法学」から引用した通り、米国判例で言えば「検閲」に当たることを考えれば、とても不当な、あるいは間違った表現であるとは言えない。ちなみに、芦部憲法学でも「検閲」という言葉で事前抑制の話を書いていたりするわけだし、「検閲」が憲法学におけるジャーゴンであり誤った用法である、っていう主張はやっぱり間違っているだろう。ていうか、検閲概念も id:atsushieno:20080407 で書いた通り、憲法学の立場は一致しているものではない(判例もそのひとつを形成しているにすぎない)。

日本の裁判所では、積極的に違憲判断を下す米国などとは異なり、既成の法律に対してはなるべく無難に、憲法判断を回避し、合憲判断に傾き、あるいは適用違憲ですませるという、書かれていないルールが存在する。これはあくまで司法の次元の話であり、立法時にわれわれが基準とすべき指針では全くない。立法活動において学説上争いのある概念に触れる立法は慎重であるべきだし、学説が問題にならないとしたら、審議会に大学の教授の席を並べる必要もないだろう。(まあこの法案のもとになっている「バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会」に居た前田雅英のポストは、他の学者と入れ替えてみるべきだと思うけど。同氏は講義をおもしろおかしくやっている方が良いだろう。)

自分の読みたい読み方で読んで、その文脈で「MIAUは検閲だと言っているけれど論理的には間違いだよ」と断定的に解釈する方が、よっぽど妥当性を欠く。MIAUの発表に対する批判って、実はちゃんとした根拠なんか無いと思うよ。少なくとも「間違いだ」という批判は間違い。

こんなことより非高市モデルについて考えを書きながらまとめようと思っていたのだけどな。

追記: これは書かないとフェアではないと思うので書いておくけど、表現規制というもうすこし広いカテゴリで論じるべきだというbewaad氏の意見については、確かにその方が無難ではあろうとは僕も思う。