ものがたり(旧)

atsushieno.hatenablog.com に続く

OpenXMLの目的

マサチューセッツでは大揺れしている標準文書仕様の問題だが、OpenXMLについて(日本語圏で)何か書いている人はあまり居ないようだ。

Peter Quinnがゴシップ記事を書かれて辞職したが、その後任についたBethann Pepoliは、州政府にとって義務となっているOpenDocumentへの移行作業を継続している。OpenDocument化の流れは全く止まることなく進んでいるようだ。

OpenXMLで主に議論になるのは、そのlicensing policyであり、僕が知っている範囲では、MicrosoftのOffice XMLのオープン化は本物かというblogエントリが詳しい(詳しい英語のweblogをかいつまんで説明している)。

ただ、実際には、それはあまり重要な問題ではない。標準化技術の枠を一歩でも踏み出せばノーライセンシングだというのであれば、マサチューセッツをはじめとする官公庁は、MicrosoftにOffice 12から全ての拡張機能を除外したバージョンのリリースを要求するだろうし、一方で他社の実装(そもそもそんなものが出現するとは思えないけど)は、すぐに拡張機能を除外したバージョンをリリースしてしまうだろう。OpenXMLに少しでもライセンス的な問題が生じたら、OpenDocumentというかOpenOfficeにすぐに移行されてしまうだろう。そもそもオープン技術についてライセンシングで罠を張るっていうのは、法律的にはリスクの高い冒険で、諸権利のミスユースとして認められない可能性が低くない(VESAにかかるDELL vs. FTC事件を想起すべし)。

ライセンシングで罠に掛けることが目的ではないとすると、OpenXMLの目的は一体何なのか?

OpenXMLというのは、主として官公庁が、オープンスタンダードに準拠する、十分に実用的な無償のオフィススイートが存在する現在、コレを使用しないというのでは、政治的な中立性が疑われるではないか、という声に応じてOpenDocumentに移行しようとしている流れを見て、これはヤバい、と思ったMicrosoftが対抗手段として打ち出したものである…と見ることは、可能だ。

だが、むしろ、MSにとって新バージョンのOfficeが売れない理由は、OpenOffice.orgに圧されているから、というよりは、古いバージョンでも十分なのに、不必要な機能ばっかり付けて売っているから、誰がそんなのアップグレードするのさ?という状態になっているからだ。これはほぼ争いのない事実であろう。

だから、OpenXMLというのは、この停滞したオフィススイートの分野で発生した、マイグレーションの動きを利用しない手はないと思ったMicrosoftが「じゃあ次のOfficeではオープンスタンダードなフォーマットを利用できるようにするから、古いOfficeなんぞ捨てて、新しいOffice 12に移行してまたうちに金を落としていってくれ」という心算ででっち上げた計画であろう。

ユーザーサイドでの問題は、OpenXMLを利用するには、(場合によってはものすごく)金がかかるということだ。Office 12はそれ以前のOfficeとは操作性が少なからず違う(と聞いている)から、部署に1つ2つだけOffice 12が入っているマシンがあれば十分、という運用でなければ、本格的に導入するには、かかるコストも少なくはない。少なくともこの意味において、「OpenOfficeの導入にはコストがかかる」と主張している人間が「Office 12なら安心だ」と主張することは許されない。Office 12を導入するには、教育費用に加えてライセンス料までかかってしまうし、Office 12のサポートが終了してしまうと、OpenOfficeと違って、他のソリューションベンダー等が古いバージョンをサポートすることがあり得ない点も問題である。

あと、これは理解できる人が少ないのであまり話題に上らないが、OpenDocumentに比べると、OpenXMLで使用されている技術はとても標準技術に準拠しているとは言えないのだが、その辺は未来は開かれている: オープンドキュメントとは何か、そしてなぜ気にかけるべきなのかという翻訳文書が詳しい。*1

*1:OpenDocumentの仕様としては、SVGXFormsなどが直接に記述できるのではなく、ある種の変換が必要になるのだが、OpenDocumentの方が標準技術に準拠しているという事実に変わりはない。