"Bruce Perens is the new SCO" contd.
そもそもSCO vs. IBM訴訟でSCOの敗訴がほぼ固まりつつあるのは、著作権侵害があるとする具体的なコードを指摘しろ、という(IBMのそして)法廷の要求に対して、SCOが何も答えることができなかったというのが理由だ。つまり、訴訟物を何ら特定することのない権利侵害の主張は、法廷では通用しないのである。(もちろん法廷でなければやってもいい、なんてことは無い。)
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0502/14/news094.html
Bruce Perensが「NovellはGPL第7条に違反している」と主張するとき、彼はどのコードとどの特許が訴訟物であるか、全く言及していない。つまり、たとえばgccやkernelが訴訟物である、と主張しなければならないはずなのに、彼はそのステップを省略しているのである。まさにSCOと同じ事をやっている、というわけだ。
もちろん、そのステップを適切に踏む必要がないと考えられる場合もある。しかしそれは、Novellが追加する(かも知れない)プロプラエタリなプラグインコンポーネントではなく、RMSが言うところのGNU/Linuxの全てを対象と考えている、としか僕には考えられない。実際、Perensはそういう考えを前提として主張しているように見える。
しかし、NovellがGNU/Linuxの全てに影響するような訴訟に関与できるはずなどないのである。
ポイントは、MS/Novell間の特許不可侵協定は、あくまで私人間の関係である、ということだ。仮にNovellが最終的にどれだけアフォなことを訴訟(って何処と何処の?)でやらかしても、たとえば「へいへい我々Microsoft様の特許権を侵害しておりますです」などと自認したとしても、GNU/Linuxの著作権者がMicrosoftの特許権を侵害しているなんてことにはならない*1。当事者も異なり、提出される証拠が異なる、ということであれば、判決も異なるし既判力も及ばない。
Red HatはNovellが著作権を有するソフトウェアが特許権を侵害しておらず、従って自らは(従前のGPLライセンスに基づく配布規定によって)配布することができる、と主張することができる。その場合、一方でNovellは既判力のある訴訟によって権利侵害しているということになっているのだから、Novellは自由に配布することが出来ない。GPL上は自由に配布できるが、訴訟を起こされたら既判力のある判例がNovellの訴訟活動を拘束することになる。Novell以外の関係者が心配することなど何もない。
"Novell is the new SCO"とか言ってる香具師は、まずこの辺の訴訟法の基本をきちんと理解していない。それどころか、専らLinuxを攻撃することで利益を得るというビジネス(?)モデルをもっていたSCOとの違いを、あり得ない形で無視している点で悪質である。
いや、Perensをはじめ「一部の人」*2はどうしてもNovellはMS特許を認めることで利益を得ることができると考えたいみたいだけど、もしかしたら彼らはNovellが反GNU/Linux的な悪意をもってビジネスを動かしている(いく)と考えたいのかもしれない。しかし、6000人規模の大企業が、たかだか2012年までの協定に全社運を賭けて動くと思っているのだとしたら、悲しいまでの想像力の欠如という他にない。
MicrosoftがあのSCOとライセンス契約したとき、我々が具体的に懸念した問題は、SCOが新たな資金を手に虚偽告訴を拡大するのではないかという点であって、あのライセンス契約によってGNU/Linuxにおける権利侵害が確認されたなどと考えた(そして法律の正しい知識をもった)人は居なかったはずだ。
というわけで、"Novell is the new SCO"という主張は、ネガティブキャンペーンにはもってこいのフレーズかもしれないが、法律の議論としてはかなり筋が悪い。長期的にはBruce Perens自身の評価を下げているだけだ。*3