ものがたり(旧)

atsushieno.hatenablog.com に続く

http://opentechpress.jp/opensource/article.pl?sid=06/11/21/0133257&from=rss

ここに来て初めて僕の予想を超える展開が見られた。僕はNovellがEben Moglenに対して全てを開示することは無い(出来ない)だろう、と考えていた*1Novellは期待以上にオープンに動いているようだ。

もちろん手放しで賞賛するわけではない(何しろまだ秘密条項が残っているのだから)し、他人にそう期待することはないが(というか、問題を適切に把握し理解する能力のある人がたくさん居るとは期待していない)。まあMoglenも同じかそれ以上に秘密主義でMicrosoftとの関係を黙っているので、この点でNovellを責めるというのはナイーブでアンバランスだろう。

Moglenの意のままに書き換えられるGPLv3

そのMoglenだが、よほど今回のMS/Novell提携を解消したいようで、ちょうど今ドラフト状態になっているGPLv3を上手いこと書き換えてNovellをGPLv3の世界から追い払おうぜ、と画策しているようだ。
http://www.theregister.co.uk/2006/11/20/eben_moglen_on_microsoft_novell/

そんなことしたら、同じようにクロスライセンスを抱えているSunのJava実装がGPLv3で配布できなくなるだろーに。それに、GPLv3ではないが特許防衛条項(特許権による攻撃による許諾解除事由発生)を含むライセンスとの相性はどうなるのだ。この許諾は部分的になるわけだが。

↑のような変更を加えるにしろ加えないにしろ、GPLv3については、客観的に存在する危険性について、適切な議論と分析を加えた上で、副作用の無い、意味のある変更を加えるべきだと僕は思うのだが。GPLv3はMoglenの失地回復のためにあるおもちゃではないはずだ。

分断

そして相変わらず「分断」という存在しない脅威を持ち出しているのを見て、僕は失望を隠せない。patent injectedな製品はGPLで配布することは出来ないのだから、自由なソフトウェアの世界でユーザーと開発者が分断されることなどあり得ないではないか。あり得るとしたらNovellが全ての権利を保有している製品についてnon-GPLで提供する場合のみで、これは理想的ではないが、自由なソフトウェアの世界で起こっている事ではないし、誰にも法的に文句を言える事ではない(変ないちゃもんさえつけられなければ、NovellGPLに基づく提供を撤回することは無いだろう)。全ての権利を保有していない製品については、NovellGPLで配布することは許されず、許諾も得られないだろうから、Novellがpatent injectedなコードを追加できるわけがないのだ。

Windowsをおたくからタダで配布しろと言って来る顧客が基地外であるように、おれらは守られているんだからpatent injectedなコードをGPL製品に組み込んで配布しろ、と言ってくるような基地外な顧客は、門前払いすればいいのだ。そんな連中は自由なソフトウェアのコミュニティの人間とは言えない、というか、法律を守る意思のある人間とは言えない。

「保護プログラムに守られてソフトウェア特許に無頓着なユーザー」と「ソフトウェア特許に対して常に高い意識を持ち続ける開発者」の「分断」など、現実には存在しないのである。

さらにMoglenは「分断」が問題なのだ、と言ってしまっているが、これは、同提携の許諾範囲が非差別的であれば問題ない、と言っているに等しい(でなければそもそも「分断」以前の問題であるはずだ)。そっちの方がよっぽど問題だ。とりあえず誰も訴えられることがないから大丈夫、と言ってpatent injectedなコードをばんばん追加した後で、提携が解消されたら終わりである。Novellの示すような、たとえ提携があろうと無かろうとpatent injectedなコードは追加しない、というポリシーの方が、よっぽどF/OSSの世界に適合していると、僕は思う。

結局「分断」って、誰が何のために演出しているんだろうね。

単独行為

(現時点で誰もここまで深い議論はしていないが)そこをさらに、分断は問題ではなかった、しかし時限付きの許諾が問題なんだ、と言うことはできる(じゃあ分断云々は何だったんだ、という話になるが)。しかし時限付きの普遍的な特許権の許諾というのは別に特別なことではないし、これは単独行為でも出来てしまう。この場合、ソフトウェア特許保有する企業は、一時的に権利を解放するだけで"GPLv3"(Moglenが手を加えようとしているバージョン)違反として「罰せられ」てしまうので、完全に権利を保持するか、完全に解放するしかない。権利を単に保持しているだけであれば"GPLv3"違反にはならないのだから、これでは本末転倒である。

ちなみに(話はえらい戻って)、NovellはSambaチームに対する回答を作っているということだけど、実のところ、僕がid:atsushieno:20061114:p2で書いた以上に内容のある返事になるとは思えない*2。いやもちろんNovellは僕と違って頭ごなしにSambaチームをバカにすることはないだろうけど。

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ところで、もし、Microsoftが一方的にRed Hat Linuxのユーザー(ただし余所の開発者はRHユーザーであっても除外)への特許免責プログラムを、Red Hatとの契約なしに実行したらどうなるのだろうか。客観的な危険性は何も変わらない。Red Hatは自らpatent injectionをもたらすことはないだろうが、それはNovellも同様である。

これはMicrosoftである必要はない。篤志家が「フリーソフトウェアを支持するため、私はRed Hatに対しては特許権を行使しないことを約束する」と意思表明した場合はどうなるのか。*3

*1:実にどうでも良いことだが、僕がそう考えていたという事実については、人証を立てることすらできる

*2:↑で書いたようなことを「お前ら何勘違いしてんの」と言っていることを悟られないように説明するのは難しいから。

*3:法律の議論は不特定の名宛人について行われなければならないのだが、きちんと中立的な議論は出来ているだろうか。