ものがたり(旧)

atsushieno.hatenablog.com に続く

ASFとGPLv2の相性に関する考察

ふと気になることが出てきてAPL2.0とGPL2.0の互換性問題を調べていた。僕は知らなかったのだが、「互換性がない」というのは、争いのない事実ではなく、単にFSFの見解がより注目されていたから知られていただけ、ということのようだ。FSFの見解に異を唱えるASFの主張は↓にある。
http://www.apache.org/licenses/GPL-compatibility.html

おれたちゃ特許なんてもってないから、grantするライセンスも無い、だからこの特許許諾終了条項には意味がないからGPLとは矛盾しないんだ、とかいう話。なるほど。それはAPLではなくASFのAPLなソフトウェアに限られた話でしかないわけだが(ここ重要)、そうだとしたらそれは確かに許諾内容においてはGPLとは矛盾しないだろう。

問題は2つ考えられる。

(1)この特許許諾条項は誰のためにあるのか。FSF著作権を有する著作物以外でもGPLが使われているのど同様に、APLはASFが著作権を有する著作物以外でも使われているから、その事実だけを取り出すと不自然ではないのだが、しかしそもそもAPLはASFのために書かれたライセンスなのではないか、ということである。ただしこれは(a)ASFが一般的な「望ましい」ライセンスモデルとして包摂しているにすぎないとか、(b)そもそも単にIBM Public licenseを継承したものだから入っているに過ぎない、という再反論が考えられる。そして多分(b)が正解だと思うが、実態を反映していない場合の問題があるので後でまた触れる。

(2)GPLが禁止しているのはGPLと矛盾する許諾内容(実態)に基づいてGPL下の著作物を配布することではなく、GPLと矛盾するライセンス規定(文)に基づいてGPL下の著作物を配布することである。

法律上は、権利外観法理に基づいて、たとえ実際に特許が存在した場合でもその権利許諾はGPLに基づいて実施されなければならない(revocation の禁止)ということになるだろう。が、(2)で問題になるのはそれよりもむしろ、GPLな開発者にはAPLなソフトウェアと結合させて動作させないことについて、独占禁止法(不当取引制限や不公正な取引方法)に牴触しない合理的な理由が果たして存在するのかという問題がある。FSFも「これが実質的に問題になる事態は無いだろうが、矛盾は矛盾だ」と主張しているわけだから、実際に実質的な問題は無くて、結合配布を禁止する合理的な理由も存在しないように思われる。

つまりどういうことかというと、GPLとAPLの非互換性問題というのは、単に「ためにする」ライセンス非互換問題にすぎないのではないか、ということである。もちろん、GPLでソフトウェアをリリースすることに問題があるわけではなく、ASFのAPLなソフトウェアとGPLなソフトウェアを結合させて配布させる行為に対して、GPLソフトウェアに基づく差止請求を行うなどの積極的な排除行為が行われた時点で問題になる。

で、先送りしていたASFの上記無特許宣言と実態が矛盾していた場合の処理だけど、
(x)FSFの立場を是とするなら、ASFの宣言は内容的に誤りがあり、そのような特許不存在宣言には何ら意味がない。従って、APLに含まれる特許許諾終了条項にはなお意味があり、ASFは特許防衛することができる。
(y)ASFの立場を是とするなら、(ASFの思惑いかんにかかわらず)同宣言は権利外観を作出しているのだから、特許権の存在は否定されることになり、ASFは特許防衛することができない。
という皮肉っぽい帰結になると思う。

実際のところ、ASFの上記ステートメントは真実ではない可能性は高いような気もする。Webサービス関係なんかIBM patentsの塊になっていてもおかしくはないように思えるからだ。とはいえ、特許を有しているか否かと、その特許権を行使できるか否かはまた別の問題で、ASFで実装が提供されている特許については、既に防衛の意味も含めて行使できない事情があるかもしれない。いずれにしろ、僕はASFが望んでいるのとはやや別の意味でASFの立場を支持しているのだろうなと思う。