ものがたり(旧)

atsushieno.hatenablog.com に続く

ライセンスか契約か

http://www.rubyist.net/~matz/20070827.html#p04

hmm, そんな決定が。

本家すらどでリンクされているページが詳しいのだけど、
http://lawandlifesiliconvalley.blogspot.com/2007/08/new-open-source-legal-decision-jacobsen.html

今回の事例は、米国法の文脈において、著作権ライセンス上要求されている氏名表示が完全に行われなかったが、Artistic Licenseに許諾終了条項が存在しなかったため(?)*1、ライセンスとしてはなお有効であり著作権侵害は認められないが、それでも契約違反としてはなお処理できる、という法律構成になっているようだ。で、その場合は著作権侵害の場合とは異なり、差止請求権が認められないというのが大きな違い、かな。既に行われている瑕疵ある配布が継続的に行われるというのだから、確かにこれは問題だ。

この辺の「契約かライセンスか」問題については、2004年のIPA調査報告書がまとめている(1.1.1参照)。
http://www.ipa.go.jp/about/jigyoseika/04fy-pro/open/2004-741d.pdf
日本法には契約法の文脈から独立したライセンスという債権債務関係は存在しないので、これは契約の(内容をどう捉えるかという)問題ということになりそうだ。著作権許諾契約の内容としての有効性が問われるということだから、日本法でも枠組みが異なるだけで同じ問題が起こるとは言えそうな気がする。*2

で、今回の決定は、僕にもよく分からない。上記(英語の)解説ページでも詳細不明とされている。ただ、もし(本家すらどで言及されていた)許諾終了条項の有無に有意な差があると裁判所が*3判断したのであれば、その妥当性を考えることはできる。

本件において当該氏名表示がArtistic Licenseの構成要素として重要なのであれば、契約履行のために本質的な部分であると解釈すべきだろうと思う(つまり、裁判所の事実認定が妥当ではないかもしれない)。

普通に考えれば、氏名表示の欠落があったところで、ただちにライセンス無効を訴えることは無いだろうから、おそらく被告は(本家すらどでは背信的悪意があったと書かれているし)これを拒否したのだろう。被告が背信的悪意者でなければ、氏名表示を追完さえすれば、不完全履行であって許諾を無効とするまでもない、という判断するだろうから、許諾終了条項の有無はそれほど有意な差を作り出せるものではない。

個人的には、氏名表示権なんてもうあまり必要ない時代になったと思うけど。

*1:本家すらどにそんなコメントがあった

*2:日本でも差止請求権法源著作権法になるはずだから、著作権侵害が認められる必要があるだろう。

*3:本家すらどのコメントは裁判所がそう判断したとは書いていないので注意