「DRMで解決」についての雑考
…と、それだけで終わってしまうのも何なので、DRMで解決とかいう文化庁の見解について書いておこうと思う。って思いつきを書き並べただけだけど。
DRMの完成を目処に補償金を廃止するという話は、単なる思いつきで口が滑ったのでなければ、実際には「補償金を廃止するつもりはないし、それまで努力を続けていると見せかけるよ」という意味だと僕は思う。現行のDRMのモデルには、問題点が無いかのような前提で突っ走ろうとしているわけだし、そもそもDRMで閉じた世界が実現するとは考えにくい。
現在のDRMのほとんどは、著作権法の前提とする権衡モデルを正しく実装できていない。たとえば私的使用や教育上の利用などの権利制限という法律上の利益(民法709条で保護される*1)に該当する著作権不行使を実装できていない。*2
僕の知る限りでは、限定的ながらも私的使用のための複製を可能にする実装は、AppleのiTunesのみである(iTunesについてはRichard Stallmanと同様の理解*3)。すなわち、技術的に不可能であるわけではない。技術的に可能であることを意図的に実装していないということである*4。
現行のDRM実装の多くが権利制限規定を正しく反映していないことを、解釈論的に「規定がないから」という点のみを理由に違法ではないと言いつつ、ダウンロードについては同じ理由に基づいて「違法ではない」と解釈しないことには、理由がない。「規定がない」のだから違法ではない。立法論として、後者に問題解決すべきであると考えるなら、前者についても立法論として問題解決を図るべきである。権利者にのみ有利な部分のみ問題解決を図ろうとする立場は、批判されて然るべきである。
DRM実装に基づくコンテンツ配信を推進しつつ、なお補償金を残すというのであれば、そのDRMシステムは最低でもiTunesレベルの法規範準拠システムのみを対象とするものでなければならない。それ以前の「劣等」DRMシステムについては、補償金の対象としないことで、適切な実装への移行を推進することが出来る。
いきなりDRMに肯定的すぎる案かもしれないな、これは。原理主義的な立場からは、DRM違法化案くらいから書けと批判されそうだ(しかし僕は中道派なのでそれは無理…)。
*1:旧民法では単に「権利侵害」と規定されていたため、著作権の制限は権利ではないのでこれを侵害しても不法行為とは解されなかったが、現行法では「法律上の利益」もその対象となるのであるから、権利として明文化されていないもの - たとえば肖像権 - も法律上保護されるとする立場に立つのであれば、理論上十分に不法行為の問題となりうる。
*2:僕自身は法律上の利益を明示的な「権利」から独立して不法行為の対象とすることに対しては否定的であり、当該民法改正は改悪であったという立場を採るが、肖像権法益などが現実に保護されるのであれば、権利制限法益も同様に保護されると考えざるを得ない。
*3:iPodを卒業した僕としては、あんな不便なmp3プレイヤーに縛られている人たちには同情を禁じ得ないけど
*4:この論法はP2Pソフトウェアに著作権侵害回避措置を実装すべきであるという議論の逆用である。この議論を否定するのであれば、P2Pソフトウェアに何らかの回避措置を実装すべきであるとする主張も否定されなければならない