ものがたり(旧)

atsushieno.hatenablog.com に続く

Winny作者逮捕事件控訴審判決について

無罪判決が出ましたね。本件起訴にかかるわたしの考え方は id:atsushieno:20061231:p2 で書いてあった通りですが、まさに控訴審の判旨がわたしの主張通りになったということで、喜ばしい限りです。最近はとにかく罰則も知らずに死刑だの厳罰だのと主張したり、明確性の原則をあやふやにしようとする輩が跋扈しているので、裁判所がそのような向きにハッキリとNOを突きつけたことに賛意を表したいと思います。

ちなみに判決文が読めない段階ではありますが、落合弁護士のまとめた判決要旨などを見るに、本判決では幇助罪が成立するに足る犯意が認められないとされているようです。小倉弁護士が一足先に書いていますが、その位置付けをどう捉えるべきか迷いました。つまり、中立的行為による幇助「ではない」(非中立的行為である)というために必要とされる行為意思は、行為の非中立性を基礎づける主観的構成要件要素となるのか、それとも単に幇助罪の故意の成立のために必要であるとされるのか。客観的帰属論についてはまだ多くの刑法学者が整理を試みている問題なので*1、わたしが上記エントリのように煮え切らないことを書くのも当然のことなのですが、本件判決でもこれは明らかにされたとは言えません(まず学説のレベルで解決すべき理論上のブランチといえるので、裁判所は玉虫色の判決を書くのが筋ということでしょう)。故意あるいは主観的構成要件要素を共同する/しない別の共犯などが存在する事例が出てきたら、改めて問題になるかもしれません。

ちなみに主観的構成要件の問題として位置付けると、ナンバープレート隠し販売業者を幇助罪とした判例との整合性はどうなるのか*2、具体的には中立的行為により専ら犯罪にのみ用いられていた物を販売する行為との違いを整合的に説明できるのか、という点が引っかかっていたのですが、落合弁護士のまとめを見る限り、「提供された不特定多数が違法な用途のみに、あるいは主要な用途として違法に利用することを勧めている場合にのみ、幇助犯が成立すると解するべきである」というOR条件になっていますね。細かいところまでよく練り込まれた判決だ…

追記: 一方で故意の問題として位置付けたとしても、客観的帰属の問題は依然として残ります。すなわち、本判決では正犯の実行行為を積極的に幇助する意思が必要であったとして無罪を認めたのであるとしても、たとえば小倉弁護士が書いているような過失不法行為の議論において、このような意思を要求しないからといって、客観的帰属の議論をスキップしても良いということにはならないのです(本判決は、故意の問題として位置付けたとしても、単に「故意が無いので犯罪不成立」と言っているにすぎず、「故意があれば客観的帰属を問題にしなくてもいい」とは言っていないのです。というか、そう言ってしまうのは一元的行為無価値論的ですね)。

とりあえず簡潔にここまで。*3

*1:って3年近く追っていないから状況も変わっているかもしれないな

*2:わたしはこの判例については事実認定のレベルで批判的なのですが

*3:どうでもいいけど間違って自分で☆つけちゃった。