ものがたり(旧)

atsushieno.hatenablog.com に続く

Patent bugfixes

うーん、今日は防御編を書こうと思っていたのだけど、つい楽な方に走ってしまった(しかもNVDL放ってるし…)

ソフトウェア特許の問題がパブリックコメント募集時期にちょうど浮上してきたのは、何とも皮肉なタイミングだ。ということで、今日はソフトウェア特許について。

例のジャストシステムと松下の事件を受けて、ソフトウェア特許の話題が盛り上がっているようだ。個人的な感想は以前にも書いたのだけど、江島さんのエントリにインスパイアされた?小倉弁護士のエントリは非常に興味深い。そうか、特許権も商標権との「一致を図るべく」*1産業上の分類を導入して、競争関係にない区分の商品役務については、特許権の行使を認めない必要があると言えそうだ。

で、多くの人が既に書いているけど、問題の本質は、ソフトウェア特許がどうのこうのっていう話ではないと思うんだよね。

ソフトウェア特許という言葉は、けっこう曖昧な表現で、個人的にはまだ平成14年以前のソフトウェア関連発明という表現の方がしっくり来るのだけど、もうすこし正確な理解を試みるなら、ソフトウェア特許には2つの意味が混同されていると思われる。

  • ソフトウェア関連発明。特許の請求の範囲が「プログラム」であるもの
  • アルゴリズムなどソフトウェアとしての部分に対する特許

平成14年法*2から含まれるようになったのは、前者だ。後者は…2つのことを区別しなければならない: (1)数学(計算方法)は現在でも特許の対象外であり、(2)物の生産にかかる方法の発明は、平成14年以前から特許の対象とされてきた。プログラムの生産にかかる方法の発明が特許対象に含まれるようになったということは、別に特許自体が「自然法則を利用した技術的思想の創作」であることを要件としなくなったわけではない。

で、21世紀に生きる我々としては、カーマーカー特許などが成立した前世紀とは異なり、「コンピューターの計算量を用いる」ことを当たり前の事として行っている。つまり、これまで人間がやっていたら大変だった仕事をコンピューターに任せる、という発想自体が、全く進歩性の欠けるものなのだ。この方向での特許の認定は、理論的にもう特許要件を満たすこと自体あり得ないだろう。*3

また、線形計画法を間違って特許にするのを防ぐには、特許の審査基準には数学的要素の濾過テスト(新規性・進歩性等の特許要件について、数学的進歩性を外してから判断する)があれば足りると思っているので、ここはあまり深刻に考えてはいない。というか僕がこんなとこで書くより今野テキストを読んだほうが良いに決まってる。

こんにち問題になっている最大の問題のひとつは、特許が簡単に認められすぎているということで、これについてはえじけんさんも

どのぐらい時間とコストをかけてこれを実用レベルに持ち込んだかという証明を基準に盛り込むべきだ。
というかたちで問題意識を表明しているけど、その基準の是非はともかく*4、僕も昨日のエントリで、特許認定の法定上限を提案している。いや何年か前にも書いたんだけど、相対評価をしなきゃいけないような教員が、全生徒に5段階評価で5を付けたら大問題だろう。特許庁がやっているのは、まさにそれだ。

「既に核ミサイルが作られてしまっている」現在、IBMがやって、Sunがやろうとしているのが対抗兵力の拡充なのだ(彼らの特許の開放は、核ミサイルの放棄とは全然違うことであり、かつ現状を打開するのに必要(少なくとも有用)であるということには気付くべきだ)。これは当然ながら核軍縮に続くのでなければ意味がない*5。核保有国同士だけがハッピーになれるような「共存」を考えている人がいるとしたら、それはきっと味方ではないから、気を付けた方がいいよ。

ブランコのこぎ方や携帯のフリッパーみたいなのはこっちの問題だろう。ユーザーインターフェースになぜか特許がみとめられちゃっている件についても、むしろこっちの問題かなぁという気がしている。僕がUIの新規性・進歩性についてどーこー言うよりも他にいくつも優れた考察が出ているはずだ。

*1:ちなみにこのような言い回しを信用してはならない。「特許法著作権法の一致を図るべく」みたいな言い方をする者も多いが、法的性質の異なる権利同士を比較する事自体がナンセンスである。そもそも民法と刑法みたいな法解釈の重なり合いの有用性が全く存在しない。この手の言説は特定の思想集団から発していることが多いことも留意事項だ。

*2:法改正と言う言葉は用いない。

*3:この辺で道を間違えちゃったのが凸版のマピオン特許だろう。これは単にソフトウェアで出来ていなかったことをソフトウェアで出来るようにしたらなぜか特許が認められちゃったという謎の代物。

*4:それを言い出すと特許権の根本から考えないといけないので

*5:EU(国民議会ですね、はいはい)が目指していた方向がこれだ。閣僚理事会が暴走しているようだけど