ものがたり(旧)

atsushieno.hatenablog.com に続く

金狩り行こー、はにかんで行こー

いま強盗致傷の判例で東京高判H15.3.20(判時1855号171頁)というのを眺めているのだけど、判決文の表現に時代の波を感じさせられる。「『中出しさせてくれたら、返してやる。』『やらせてくれたら返してやる。』などと言って、D子の要求を拒絶した」とか、授業中に学生が読み上げるんかい。

そっちは冗談として、もうひとつ妙だなと思ったのが、検察官調書に「『金、狩りに行こう』という表現でBに『カツアゲ』をもちかけた旨供述していた」という風に書かれていたこと。これ、日本語としておかしいでしょう。間違いなく「金、借りに行こう」と書くべきところだ。検察では「狩り」と表現して、犯罪であるということを強調しているのであろう。

非常にくだらない話である。犯罪者が「借りる」と表現した場合でも、その発言に結びついた客観的な行為を鑑みれば、カツアゲを行う意思が認められるのだから、日本語を歪めてまで犯意を強調する必要は無いはずである。検察全体がそういう組織になっているのだろうか、それとも特定個人の人格的問題なのだろうか。

追記: いや、必ずしも検察が意図的にそのように記述したとは言えない。被告人にとっては、同日が給料日であり、手元に20万円を超える給与を所持していたことを考えると、「金借りに行く」の誤解であるという読みも、正しくない可能性が低くない。もっとも、高裁は同被告人の証言が質問者の質問に激しく左右されることを読み取って、証言の信用性には問題があるとしている。「言わせた」可能性は低くないし、証言の信用性を維持するために弁護側が発言を認めさせ続けたということも大いに考えられる。

高裁では、警察官調書と検察官調書の記述が著しく乖離している点を指摘して、合理的疑いが残るとして破棄自判している。つまり「やりすぎ」た事案ということになろう。皮肉なのか、裁判所まで上記「返してやる」云々の言い回しをそのまま使い回している。

具体的にこの判決で問題になったのは、事前に金品奪取の意思が存在したかであって、強盗致傷(当時7年以上)か傷害+昏睡強盗(5年以上*1)かという、極めて大きな違いに繋がる。ボコる前に金を盗る相談は絶対にしてはいけない。犯行前に表題のような歌をのんびり歌ってたら(現在)6年以上無期ですよ。

何はともあれ、この感じだと参加者(何の)は無難に事後強盗不成立説で行くだろうから、事後強盗罪成立の立場をでっち上げて行かないと、面白くないだろうな。

*1:短期刑と長期刑の併合罪の処断が短期刑に基づくというのは、51条の規定には無く、あくまで通説的見解