ものがたり(旧)

atsushieno.hatenablog.com に続く

国際摩擦と法

id:ced:20060711:1152626541で興味を引かれたので読んでみた。概要は同エントリを参照してもらえば分かることも期待できそうなので、僕は個人的に興味深いと思った米国通商法301条(いわゆるスーパー301)まわりの話を引用してみよう:


 アメリカのヒュデックという、従来のGATTの法的側面の研究者が、「正当化され得る反抗」という視点から、通商法301条(特に1988年包括通商・競争力法によってさらに強化されたそれ)について論じた。それが日本でも注目されていたが、「不公正貿易報告書」もそれを批判していた。もとより正当だが、若干インパクトの弱い批判の仕方であった。

 ヒュデックは、従来よりGATTは、ある種の機能閉塞に陥っていた、とする。何かと対応が鈍いし、その他の点でも種々の問題があるから、GATT違反ではあっても思い切った措置をとることによって初めて、事態は進展する。そのための道具としてヒュデックは三〇一条を位置付け、「正当化され得る反抗」論を説くのである。

 だが、若干誤解があるのだが、彼は終始三〇一条はGATT違反だと述べた上でこの点を説いていた。しかも、「正当化され得る反抗」論によって三〇一条を正当化するためには、アメリカが、他国に対して行うのと同様に、自らに向けて三〇一条を適用することが必要である、としていた。結局アメリカは外国に対してのみ三〇一条を適用しているから、正当化できない、というのが彼の結論である。そもそも妙な議論なのである。
(P.166-167, 強調筆者)

国際法の理論において正当化されない実力行使を行っているということは、国際法のレベルで近代法の原則から外れている自力救済を行っているということになる。

こういった例を初めとして、この書では、アメリカがいかに都合の良いルールを都合の良い形で押しつけてきたか、という話が、何十件も紹介されている。石黒国際法の論文から、主張をピックアップしたような形になっているようで、読み応えがある。もしかしたらそれなりの前提知識がいるかもしれない。*1

*1:関係ないけど、国際私法を勉強したことがない人は「牴触」を「抵触」の誤植だと思ったりするかも。