ものがたり(旧)

atsushieno.hatenablog.com に続く

学問バトン

しばらく前になってしまったけど、id:inflorescenciaという著作権腐女子の方からバトンが飛んできたので書いてみます。何か、すげーいろいろ勉強してる人に謎の人扱いされてるけど、僕はいたってフツーですからw

  • あなたの専門・専攻・得意教科は?
  • あなたは、どのようなテーマに関心がありますか?
  • あなたは、なぜその専門・分野を選んだのですか?
  • あなたが最も影響を受けた人と、その理由を挙げてください(複数人可)。
  • あなたが影響を受けた本とその理由を、何冊か挙げてみてください。
  • 入門者に、その分野の「入門書」として一冊お勧めするとしたら何を薦めますか?
  • あなたが考える、その専門・分野の「武器」はなんですか?
  • 他人に「君、大学では何を研究してたの?」等と聞かれた場合、なんと答えるようにしていますか?
  • あなたがその専門・分野に関して、一般の方に知ってもらいたいところは何ですか?
  • あなたがその専門・分野に今後期待することはなんですか? あるいはあなたがその分野で達成したい目標はなんですか?

*1

あなたの専門・専攻・得意教科は?

フツーの法学部の学部卒ですし、大した背景は無いと思います。書きにくいので↓↓でまとめて書いたことにします。

あなたは、どのようなテーマに関心がありますか?

ソフトウェアやネットワークと法制度が関係してくる局面について関心があると思います。特に、正当性の無い権利システムを批判的に捉える傾向があるでしょう。これは必ずしも法律の話に限らず、たとえばフリーソフトウェア原理の正当性などについても同様ですが、ほとんどの場合は法律に関する議論が関心の対象です。もっとも、ネットワークや産業の発展を促進/阻害する、という方向での議論よりは、法システムの公平性を維持する/損なう、という方向での議論に、より関心があります。

あとは、恣意的な法運用を可能にしようとする立場に対して(主として批判的な)関心をもっています。特に刑法の領域。むかし、自転車の防犯登録確認をしてきた警察官に、白バイの駐車禁止違反を指摘したら「自転車の無灯火は最大1万円の罰金にすることもできるんだよ」と脅迫された経験に基づいているかもしれません(いま警察官がそんなことをしていたら、録画されてようつべにうpされるでしょうけど)。近年では、駐車監視員制度などのように、関係省庁と癒着した立法の「腐敗」*2にも多少関心があります。

あなたは、なぜその専門・分野を選んだのですか?

なんちゃってです。

高校の頃、物理の成績がサッパリで世界史の成績が妙に良かったので、そのまま自然と文系のカテゴリに位置付けられました。当時からパソコンはいじってましたが、ただフリーソフトの類で遊んでいただけで、プログラミングに興味があったわけでもなく、別に学問として真面目に修める気もありませんでした。たまたま法学部に入りましたが、センター試験を受けるまでは文学系にするつもりだったくらい、テキトーです(センター試験の結果が良かったので、その比率の高かった法学部に乗り換えました)。ちなみに、同じ大学を受験した妹が「わたしは(あんたみたいにてきとーな理由で)法学部にはしない」と言っていたのですが、センター試験が終わった翌日、僕と全く同じ理由で乗り換えました :|

大学に入って、1年生の頃は、法学にはさっぱり興味が無かったのですが、この頃からパソコン系サークルを通じてプログラミングに興味をもつようになりました。C++かな。彼らと一緒に工学部とかの電子情報系の授業を受けるのも楽しみでした。計算機工学とネットワーク理論はその頃の知識が全てです。XMLへの関心は、学生時代にアルバイトでSGML関係の仕事を3年半続けていたものの延長です(そんなわけで僕はXMLについてはドキュメント指向)。Lisp系言語の知識もそうかな(ほとんど忘れましたが)。

さて、法学については、1年生の頃はさっぱり興味が無かったのですが、2年生になってふらっと著作権法判例集を眺めていたら、サザエさん事件だのたいやき君事件だのパックマン事件だのといった、妙に香ばしい名前の判例がたくさんあって、何じゃこりゃあと思って授業そっちのけで勉強するようになったものです(こどもだ…)。で、周りの法学部の連中は、パソコンなんてちっとも分からない様子だったので、おまいらにプログラムの著作物の話とか理解するのは絶対無理だから、おれが極めちゃる、と思っていました(たぶん)。分かる人はあまり居ないと思いますが、SGMLスタイルシートはプログラムの著作物になるのか、といった議論を考えていたのを覚えています。知財ゼミは、3年生の時に存在していなかったので、4年生になったときに知財の先生につくってもらいました*3

それとは別に、大学でよく遊ぶようになったクラスのグループで、夜学向けの刑法の授業を受講するようになっていて、気付いたら同じ刑法のゼミに入っていました。確かFLMask事件あたりのレポートを書いて、まわりのゼミ生に不思議な目で見られていたのを覚えています。で、これが優秀な学生の多い、よく遊びよく学ぶゼミで、自然と鍛えられていたと思います。

大学を卒業したら、法律は全く使わない仕事になったのですが、プログラマーで法律を知っているといろいろエラそうなことをネタに出来るので、細々と本を読んだりしていました。

あなたが最も影響を受けた人と、その理由を挙げてください(複数人可)

これ、もちろんアカデミックな意味で、ですよね。あんまし他の人から影響を受けている気がしないんですけどね。

大学のサークルの人たち。ほとんどが理学部で、宇宙論だの光学だの相対論だのといった話にアレルギーが無くなったのは、彼らのおかげです。具体的な知識は全く身についてませんけど。プログラミングを勉強してみることになったのも彼らの影響です。まあ、x86命令で1,2サイクルを削る争いをしていた彼らの横で、僕はCでちょびっとコードを書くだけでしたが。

後は、ロージナ茶会、かなあ。明確なポジションのある団体というわけではないから「影響」は受けにくいけど、議論は大いに参考になっていると思います。白田総統の論説にはもちろん影響されているはずですし。

あなたが影響を受けた本とその理由を、何冊か挙げてみてください

僕はほとんど本を読まないのですが、1冊決定的なのを挙げておきます。

「日本‐アメリカ」コンピュータ・著作権法

「日本‐アメリカ」コンピュータ・著作権法

大学生の頃に読んだもの。例によって著作権法判例集を眺めていた頃に神保町の古本屋で発見しました(当時既に絶版してたと思う)。カージャラは、レッシグを指導していたこともある法律家で、このような主題の議論では、少なくとも日本においては先端を行っていた人物です。著作権判例百選の第2版には、この椙山弁護士の マイクロソフト事件の解説が載っています(ちなみに第2版には他にもIBFファイル事件の解説なども載っていたりして、非常に示唆に富むものだったのですが、第3版のプログラム著作物関係の解説はほぼ軽薄なものに置き換えられていて遺憾きわまりないです)。*4

本書では OSの著作権保護の是非やマイクロプログラムの著作権保護の是非が論じられていたり、現在のリバースエンジニアリング合法論の土台になる議論が提示されていたりと、プログラマー的な観点で面白いものでしたし、僕の考え方の基本になっていると思います。ゲームが映画の著作物扱いされてきた時代に、本当に映画の著作物と同等の保護を受けて良いのか、という根本的な議論を提示したのもこの本です(中古ゲーム判決を見ればこれがいかに「正しい」ものだったか分かるでしょう)。

レッシグのCODEが出版されたのは大学を卒業した後だったのですが、学生の頃にこれがあったら、もっとインターネット側に傾倒していたかもしれません。

入門者に、その分野の「入門書」として一冊お勧めするとしたら何を薦めますか?

刑法の方はちょうどいいのが思いつかないのでこっちで。

著作権法概説

著作権法概説

著作権法学は、刑法学を勉強していた立場から言えば、きわめて浅薄で理論的検討も具体的妥当性の検討も少ないもので、ことに「強力すぎる権利の悪影響」について、現行法がこうなっているが、これでは問題がある、といったまとめができている教科書は、これくらいしか存在しないと思います。とは言っても、僕は現役学生の頃には教科書は何一つ持っていなかったし、コレを買ったのも21世紀になってからですけど。

あなたが考える、その専門・分野の「武器」はなんですか?

法律そのものが「武器」ですから…他人の足元を掬うことが出来ることで、特に別件逮捕や排他的取引と絡めて用いられる知的財産権は便利で危険な武器です。善人であるところのわれわれは、それらに抵抗するための武器として、この分野の知識を活用します。

他人に「君、大学では何を研究してたの?」等と聞かれた場合、なんと答えるようにしていますか?

刑法と知的財産法です、とか、法学部情報工学科でした、とか、うちはチャラい勉強でも卒業できますから、何か研究してたわけじゃないっすよ、とか、場面に応じて使い分けてます。この質問に何と答えるかは、あまり重要ではないと思うので、このくらいで。

あなたがその専門・分野に関して、一般の方に知ってもらいたいところは何ですか?

他の諸法学以上に、教科書に書いてあることや専門家の言うことを鵜呑みにするな、ということですね(もちろん、それ以上に匿名で書いているような人間の言説を信じるのは論外ですが)。分かりやすい教科書を書いている人が、あなたにとって本当に読むべき学説、あなたが本当に支持すべき学説を、書いているとは限りません。

法律学の「権威」を重んじる必要はありません。我妻栄を平気で否定できる民法学者の方が、正しいことを言っていると信じれば、そちらを支持すべきです。警察学会で重んじられている「権威」は、理論的にはgdgdかもしれません。浅薄な背景しか無い著作権法学に本当の権威なんて居ない可能性は高いです。

あなたがその専門・分野に今後期待することはなんですか? あるいはあなたがその分野で達成したい目標はなんですか?

まあ最近それほど関心が深いわけではないのですが…究極的には不要な知的財産権の全廃と、それに取って代わる規範的価値の確立でしょうか。知的財産制度なんてものを「大きな政府」で維持しなくても、現実には問題が無いはずだ、というのが、僕の基本的な規範意識にあると思います。

次のバトン

いつもながらトモダチが少なすぎて困惑するところですが、以下の皆様。まあ気が向きましたら。

*1:元ネタはコチラ

*2:レッシグがそんな表現を使っていたので模倣

*3:というのが真実とは思えませんが、3年生の頃に先生にリクエストしていたことは事実です

*4:じつはこれにはひとつだけ大きな例外があって、それは他ならぬ白田総統の書いたフォーマット・レイアウトに関する事件に関する論説。前述したSGMLのレイアウト言語のような存在についてまで言及されていて、非常に驚いた。