ものがたり(旧)

atsushieno.hatenablog.com に続く

青少年ネット規制法のせいでiPhoneが違法になる

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0806/04/news080.html

iPhoneSoftbankを使うかたちで発売されるというニュースが昨日話題になったけど、iPhoneはすぐに違法商品になる可能性がある。というのも、今出ている話では、青少年ネット規制法では、iPhoneのようなネットに接続できる情報端末には「フィルタリングソフトウェア」を搭載する義務があるとされているからだ。

手元にある自民党の法案要綱によると、このフィルタリングソフトウェアとは「指定青少年有害情報フィルタリング推進機関」なる認定機関が認定したものに限られ、その認定機関そのものは国によって指定されるものだという。

http://mainichi.jp/life/electronics/news/20080603ddm00201...

記事では「パソコン」と書いてあるが、手元にある法案要綱では「インターネットと接続する機能を有する機器であって青少年により使用されるもの(携帯電話端末を除く。)」とある。「(携帯電話端末を除く。)」の意味は、ケータイのフィルタリングされたネットワークに接続する機器という意味だろうから*1wifiで接続される部分をフィルタリングしないiPhoneは違法扱いされる。

もちろんこれはiPod Touchにも当てはまる。

また、プレインストール義務とはしないが、フィルタリングソフトウェアの導入可能性担保を義務づける必要がある、という議論があって、現在はそのような修正案があるという話も聞き及んでいるが、これはGNU/Linuxを違法化から救済する一方で、やはり勝手アプリをインストールできないiPhoneのようなデバイスを違法化するということであるように思われる。

個人的には勝手アプリが作れないiPhoneにはあまり興味を持てないしそのような物が流行するのも好ましくない傾向だと思っているが、だからといって違法化して市場への参入を阻止しようというのは到底認め難いと考える。Jonathan Zittrainが"the future of the Internet and how to stop it"の冒頭で指摘しているように、iPhoneのようなクローズドシステムが、PCのようなオープンなシステムにおけるバグとウィルスだらけの環境という問題から解放されているとして肯定的に捉える見方もある。*2

The Future of the Internet--And How to Stop It

The Future of the Internet--And How to Stop It

新規市場参入やGNU/Linuxエコシステムを破壊するフィルタリングソフト搭載義務

より大きな影響を受けるのは、GNU/Linuxを搭載するOLPC XOEeePC、そしてGNU/LinuxのプレインストールモデルのPCを提供するDell、HP、そしてMyComtecなどLinuxプレインストールモデルのPCを提供する企業だろう。これらは完全に違法扱いされることになる。GNU/Linuxにおいてはそのようなフィルタリングソフトウェアが存在しないからだ。*3 *4

特に、フィルタリングソフトを義務づけることになると、これらは成人限定としてのみ販売されることを余儀なくされ、結果として、学校教育という市場からGNU/Linuxの環境が完全に駆逐されることになる。

また、この法案は、PalmOSMonaOS、Jnodeといった、アプリケーションの開発資源の無い/小さいOSを搭載するネットワーク接続端末を、完全に排除するように設計されている。現状追認だという言説もあるが、これは真っ赤なウソだと考える。新規市場参入を阻止するという大きなマイナス効果がある。

フィルタリングソフトウェア搭載はもともと「義務」ではなかった

上記の青少年ネット規制法のニュースにも書かれているけど、一連の青少年ネット規制法の議論を経て、今回の話合いでまとまりつつある法案はかなり規制派の主張に歯止めをかけたものになっている。ISPのフィルタリングは努力義務になっているし、認定機関は無くなるか、あるいは民間で設置することにはなっている(個人的には、CODEでLessigが指摘するように、自民党案のような形式は、かえって立法の説明責任を逃れるためのせこいものだと批判的に考えているが)。これは特に今回の法案を危惧して積極的に活動してきた人たちの大きな成果だと思う。

しかし、このフィルタリングソフトウェアの導入義務だけは、もともと「努力義務」として言及されていたのが、なぜかこの段階になって「義務」として悪化している。一体誰がこのような方向性を主張し誰が支持してきたのだろうか。

今回の事件は、GNU/Linuxのエコシステムがいかに非本質的な部分で政治的に葬り去られることがあり得るかという、重要な前例として、じっくり検証され後々まで語られることになるかもしれない。

追記: 楠さんが最新動向をITmediaに寄稿している。フィルタリングソフトウェア搭載義務はなくなったようだ。って、知ってたけどね。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0806/06/news057.html

MIAU(Movements for Internet Active Users:インターネット先進ユーザーの会)を中心にLinuxなどのフィルタリングソフトウェアが提供されていないOSのプリインストールが難しくなるのではないかと懸念する声もあったが、Firefoxなどフィルタリングを容易に実装するためのアドオン機構が搭載されており、懸念は払拭されたのではないか。

なるほどそういう認識か。ブラウザレベルの対応で良いということであれば(実際のところそれで良いわな)、WindowsであればInternet Explorerが既にフィルタリング機能を実現しているわけで、フィルタリングソフトウェアをプラスアルファで導入ということは全く考えなくても良いわけだ。

*1:そうでないと解釈する適正な立場があれば是非聞いてみたいものだ。

*2:Zittrainも含め、その考え方を支持しているか否かとは別問題

*3:GNU/Linuxと書いている意図をちゃんと汲んでもらいたい。

*4:iptablesとか使えばいいじゃん、っていうのは僕が最初にプレインストール義務化の話を聞いた時に出した見解なのだけど、実際にはここで指定機関による認定というのが問題になってくる。つまりそれでは解決にならない。