ものがたり(旧)

atsushieno.hatenablog.com に続く

万引き後に車でひき逃げし死亡事故を起こして強盗殺人に問われた事例について

何となく気になったので時事ニュースに雑感を書いてみる。相変わらず「批判されない」mixi日記では「どう考えても死刑でしょ」的な勘違い絶対的応報刑論が目立つな。

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20081202k0000e040082000c.html

もしかしたら法律判断として興味深い事例だったりするのかなと思ってざっとニュースを眺めてみたが、そんなこともなかった。これで被告人が単なる幇助(逃亡)だけ予定していて強盗の意思連絡など無かった、なんてことになると、興味深いというかややこしいことになるわけだけど。窃盗を共同実行した男性が窃盗罪にとどまっているのは、車での逃亡に関与しなかったためであるようだ

弁護人は「殺意」の有無を争っているみたいだけど、実はこれは強殺が前提になっているとしたら全く意味が無かったりする。強殺は結果的加重犯なのだから有責性の問題にはならないし、刑罰は死刑か無期しかないし、求刑は最も軽い(!)無期なわけで。執行猶予もあり得ません。

理論的にはまず強殺になるかどうかが問題になるはずで、強殺でないということになって初めて殺意の有無が問題になる。殺意があれば窃盗と殺人の併合罪、無ければ窃盗と危険運転致死の併合罪になるだろう。

本来想定されていた典型的な強盗は、民家に包丁持って金を出せって言ってくるものである。強盗関係の罪が格段に重い(5年以上、傷人は7年以上無期、殺人は死刑無期のみ)のは、そのような重罪が多発した終戦直後の社会的な要請が理由だった。

これだけ重い処罰が与えられる強盗罪における暴行・脅迫は、相手の反抗を抑圧する重大なものに限定されている。万引きの取り返しを防ぐために逃走するのが目的で車を運転したのであれば、それは相手の反抗を抑圧したものとは言えない。それ以上に積極的に相手にぶつけてやろうという動きがあって、初めて強盗罪の構成要件たる暴行・脅迫があったと考えるのが筋だ。そういう観点で「殺意」を争っているというのであれば分かる。

一方で単なる殺人罪における故意を議論しているのであれば、未必の故意なども問題になりうる。だから、わたしは強殺としての殺害の故意が否定される一方で、殺人の故意が認められる可能性は理論的にも十分にあり得ると考える。