ものがたり(旧)

atsushieno.hatenablog.com に続く

MPEG LAによるWebM牴触特許の公募は独占禁止法違反ではないか

http://slashdot.jp/yro/11/02/18/2237215.shtml

競業他社に自団体のソフトウェア特許のライセンスを強要するために、全世界に向けて牴触特許の公募をかけた企業・団体が他にあっただろうか? patent trollに他ならぬ所業であり、正当化の余地はないと考える。

独占禁止法第8条は、次のように規定されている。


第八条 事業者団体は、次の各号のいずれかに該当する行為をしてはならない。

一 一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。

二 第六条に規定する国際的協定又は国際的契約をすること。

三 一定の事業分野における現在又は将来の事業者の数を制限すること。

四 構成事業者(事業者団体の構成員である事業者をいう。以下同じ。)の機能又は活動を不当に制限すること。

五 事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること。

特許法第21条であらゆる競争疎外行為が独占禁止法の適用除外であるという立場は既に独占禁止法の議論において過去の存在となっているが、仮にその立場であっても「自らの特許権によらない」競争阻害行為を適用除外する理由にはならない。「公募する行為」そのものが競争阻害目的行為にあたると言えよう。第1項には具体的な行為要件は無く、行為の実態から判断される*1

ちなみに、MPEG LAは昨年にもNero AGから日本法で言うところの優越的地位の濫用を理由に独占禁止法で提訴されている。この起訴理由は今回の件とは性格が異なるが、Nero AGが「主要特許はとっくに切れているのに、無関係な特許が取り込まれている」と主張していることも、MPEG LAがpatent trollでしかないということを当局が理解する助けとなろう。

ちなみに、/.jpの記事には、WebMのライセンスで特許権に基づくライセンス取り消しはMicrosoftVC-1についてWindowsで行ったのと同じ行為だという主張が見られる。これは全く別の問題なので(MPEG LAの独禁法違反はGoogleの特許ライセンスが独禁法違反の成否とは無関係に成立する)、取り上げる必要はないと思うが一応。

MSは「Windows全体に対するライセンス」を拒絶することで、Windowsの優越的地位を濫用したと評価される。一方、Googleができるのは、Androidの一部であるWebM実装に対するライセンスを拒絶することのみであり、Windowsの事例とは性格が異なる。Microsoftを提訴しようという者が関連技術のみを除外したWindowsを配布することはできないが、Googleを提訴しようという者はWebMコーデックを除外し自らの動画コーデックをバンドルしたAndroidを配布することができる。

GoogleYouTubeをWebMのみをサポートするようにしたら、改めて優越的地位の濫用が成立する余地はあろう*2。その際にも、YouTubeは動画そのもののライセンスを掌握して独占的に配信しているわけではないので、それが直ちに優越的地位と言えるとは個人的には考えにくい(この点では、AppStore以外でのコンテンツ配布を禁止するAppleについては、優越的地位の濫用が大いに成立しうる)。また、(市場規模は直ちに優越的地位を否定する要因ではないが、)日本にはニコニコ動画のような大きなシェアを持つ競争者がいることも事実だ。

法的な問題は、類似事例をそのまま適用できると考えずに、個別具体的な要件を検討した方がいい。

*1:白石忠志「独占禁止法」P.267、およびそこから参照される事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針も参照

*2:独占禁止法24条が適用される事業者団体規制とは異なり、一事業者は単に「おそれ」があるのみでは提訴できない