ものがたり(旧)

atsushieno.hatenablog.com に続く

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昨日、ゲームの世界での自分が自分の中心的な存在でも良いと思っていた、というような話を知人から聞いて、うへぇと思ったわけである。そんなわけで、先週「仮想世界の法と経済」の話を書くのを忘れていて、そのままタイミングを逃していたのだけど、とりとめもなくまとめてみたい。

まず、このレポートがかなり参考になると思われる: http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20070724/lawcom.htm

境准教授(id:masays)が指摘していた話が面白かった。純サイバー経済と準サイバー経済に分ける考え方については↑を読んでもらいたい。

  • RMTは防止不可能である。仮想世界における物のやり取りの対価を現実世界で行うことを抑止することは現実的にはできない(京都府警を送り込むこともできない)。
  • LD(リンデンドル)は不換通貨である(金本位制などが認められない)が、これは元(中国)の紙幣以来まあそういうものである。
  • LD本位制が出来るとしたら、LDを対象とする条約が求められることになるだろうけど、いち企業の仮想通貨(あるいはポイントエコノミー)を対象とする条約なんて存在したことがない。

通貨の可換性については、企業通貨や電子決済に関してなされている議論とかぶってくるところが多々あると思うし、さらに以前にあった地域通貨の話なんかにも繋がる話だと思う。

境氏のセッションでは、課税の問題についても言及していて(SecondLifeは米国法に服するのか、サーバをパナマに移転したらどうなるのか、等)、仮想通貨とリアル通貨の換金時関税方式が唯一解ではないかと指摘されていたが、まあそうなるだろうなと思う。これも指摘されていたことだけど、仮想世界で取引に用いられるのは、LD以外でも良い。モリタポマイレージの交換も、レートさえ決まれば可能かもしれない。

氏の話の主要な議論は、仮想空間の国籍性をどうするか、という点で、これが決まれば準サイバー経済に介入する法が決定し、法の支配がなされる、そのためにサイバー国籍条約を創設し非加盟国からの接続をキンししてサーバヘブン問題を解決だ、仮想空間内に領土を建設してサイバー自衛隊を置くぞ、サイバー国籍なら生得的ではなく選択的だ…などといった話が出てきた。

で、もうひとつ興味を覚えたのは、自然人・法人に続く第三の法人格としてのロボットの問題が取り上げられていたこと。オートマタ同士でアバターが勝手に買い物した場合の法律(?)関係はどうなるのか。あるいは、お茶の水博士はアトムが損壊した財物の損害賠償の責を負うのか、といった話が挙げられていた。うーむ、なるほど、アバター方面で関係してくるのか。id:atsushieno:20070513:p2をもう少し見直して掘り下げてもいいかもしれないな。

あとは、白田総統の講演も高度な内容で聞き応えがあった。↑のレポートは良くまとまっていると思う。例のinside-gamesのインタビューの内容に、法規範の形成についての分析(これこれとか)が加わったような内容だった。

法規範の形成に関して言えば、RMTに対してSecondLifeのLDがもたらしたものは大きかったと思う。それまで何となく、RMTは悪いこと=一律違法化してしまってもよい、みたいになっていた空気が、これのおかげでほぼ吹き飛んだように思える(韓国は手遅れで既に違法化してしまったんだっけか?)。それまでRMTを前提としたアーキテクチャをもつゲームは(少なくとも僕ら普通のネットユーザーが一般的に知っている範囲では)存在しなかったわけだ。

で、現状オンラインゲームなんてやり直しがきく世界だから、現実世界の法のように人格の同一性を前提にした諸制度が適用される可能性も低く理由も無いのだけど、将来的にはどうなるかは分からない。が、まあ、冒頭に書いた話を聞いて、これをリアルに思い出させられたというわけだ。(境氏の講演でも、「今度からSecondLifeで仕事します、って言われたらどうする?」という話があったな。)

まあ、現実の法が適用されていく、と言ったって、たとえばアバターを破壊されたからといって刑199条が適用できるわけでもないし、見苦しい赤毛の半裸男*1いきなり連結されたとしても、刑176条が適用されることはないわけで、その辺はなおも現実世界の法という文脈を通しての適用ということになるだろう。

まあ、そんなわけで、法と経済の面白い議論が、この領域ではいろいろ見つかるかもしれない。ゲーマーの人々であれば、特に何か書きやすいかも。

*1:いや、これは関係ないか…