ものがたり(旧)

atsushieno.hatenablog.com に続く

ブラックジョークの真意

MIAUパブリックコメント案の「虚偽の著作権表示の違法化」について、複写と著作権MLの末廣さんから、id:copyright:20071029:p2で詳しく解説していただいた。特に具体例がたくさん挙げられているのはさすが。ありがとうございます。

で、前半は具体的検証で、後半は「しかし反対である」という趣旨になっている。

虚偽の著作権表示を違法化するというのはブラックジョークとしては、非常に高度名ものだと思いますが、ブラックジョークはあくまでもブラックジョークです。

現実的にそのような法改正がなされるとしたら、それはそれでとても問題だと思います。

ブラックジョーク、と最初に見た時、ちょっと違うんじゃないかな、とも思ったけど、Intelligent Designを痛烈に皮肉ったFlying Spaghetti Monsterみたいなものだと思えば、これは確かに「ブラックジョーク」そのものだ。

無差別な「違法化」は大変好ましくないと僕も思う。もともとのパブコメ案では

(実務的な観点から、改正法運用当初は、そのような「違法行為」について、刑事罰までは定めなくても良いと考えます)

と書いたけど、これは荒削りすぎた。id:atsushieno:20071026:p1では、こう書いている:

カジュアル・コピーライトが流行している現在、一般人でも安易に虚偽の著作権表示を行う可能性は低くないので、いきなり刑事罰まで科するのは行き過ぎかもしれない。しかしRIAJの言う「適法ダウンロードマーク」を付けている業者であれば、資格剥奪や刑事罰の対象としてもおかしくないかもしれない。高度な注意義務があるはずだし、その違反行為の違法性の強さも著しいからだ。

現在は、これでもまだ広汎にすぎたと思っている。さらに練り直すなら、刑事罰の有無以前に、そもそもの違法化主体を、「関係業者」(この「適法ダウンロードマーク」を付けている業者や政令指定の著作権管理団体、つまりJASRACやeLicenseなど)に限定することで、高度な注意義務を理由にした適切な対象の限定が可能だと考えている。

これくらいのことは、実のところダウンロード違法化の是非によらず実現すべきだと僕は考えている。

ところで、末廣さんの懸念は次の2点:

なのだけど、これについて補足的な説明を試みたい。

まず、前者については、「法の不知は罰せられる」ものであることを、前提として理解しておくべきである。

刑法上は故意が無ければ問題にならないので、「誤解や勘違いに基づいて」虚偽表示を行うのは犯罪にはならない。また、民法上も「情を知って」という要件を追加すれば、過失による虚偽表示も赦されることになる。*1

というわけで、末廣さんのこの懸念はむしろ、国民には「虚偽の著作権表示なんてしてはいけない」という法規範意識が無いのだからそれは違法化すべきではないのではないか、という意図だと僕は解釈する。それについては、(1)同意する気持ちと、(2)しかし元々国民の規範意識になかった著作権を法規範として形成してきた歴史があるわけで、その歴史が正当化されるなら、この虚偽表示違法化という法規範化も正当化されるべきだ、という思いとがある。

後者については、個人の言論・表現の自由の領域において、「著作権がある(べきだ)」と主張することは、僕も規制すべきではないと思う。実際に虚偽の著作権を単なる表示を超えて主張すると、方法によっては普通に刑法222条(脅迫罪)あるいは223条(強要罪)の問題になると思うけど。*2

しかし、商標法や不正競争防止法独占禁止法といった産業法の領域では、「表現の自由」や「言論の自由」は規制されているし、特に上記の「関係業者のみ」の絞り込みを前提とすれば、虚偽の著作権表示の規制というのは、これらとほぼ変わらないことになる。高度な信頼性が要求される商取引において、虚偽の表示を行うことが「表現の自由」であるとは、僕には思えない。

まあ、いずれにせよ、僕はダウンロード違法化が実現するのでない限り、虚偽の著作権表示をどうしても導入しなければならないとまでは考えていない。これが必要になるのは、ダウンロードが違法化される場合だ。つまり僕としては、これはあくまでブラックジョークであってほしい。

現実に無差別な虚偽の著作権表示の違法化が議論されるようになったら、僕はそれには反対する。それは僕の意図するところではないし、末廣さんが上手くまとめてくれた問題意識を、僕も共有するところだから。

*1:ダウンロード違法化の要件として中間整理でまとめられているものと同等であることに注意。何しろブラックジョークだから。

*2:オタキングの事例なんかは、可罰的違法性さえ認められれば理論的には黒だと僕は理解している。