ものがたり(旧)

atsushieno.hatenablog.com に続く

コンテンツ消費を最大化する正しい方向はどちらにあるか

闇黒日記2.0より。ひとつの正論ではある。
http://blogs.yahoo.co.jp/nozakitakehide/7824137.html

が。

僕がこれでひとつ懸念するのは、過去に放送してもはやTV局にもテープが存在していない番組などである。現実的には、テープが存在していても、それをデジタルリマスターするためのコストをTV局がわに負担させるというわけにもいくまい。全額出資というわけにもいかないから、一部のみ補助金を出すという形で解決せざるを得ない。(野嵜さんも非現實的なのを承知で書いているわけだけど。)

現在はそんな補助金システムは存在しないから、ネットの住人に勝手にうpしてもらった方が効率的で、著作権者は自分たちのビジネスの邪魔になる違法コンテンツだけばんばん消して回ればすむ。権利者がやっても金にならないのであれば、放置する方が楽だ。現在はそうやって回っている。

違法コンテンツだからと言って内容も見ずに削除して回ったり、違法化しろと騒ぐだけでは、コンテンツ消費のパイが小さくなるだけだ。JASRACだってダウンロード違法化には積極的に賛成していない。パイが小さくなることが分かっているからだ。うpされているコンテンツの一部から利益を回収する方が賢いやり方だ。

権利者がYouTubeやニコ動などのインフラを利用して無償で公開することを条件に、消費者が録画していたビデオテープをデジタル化して提供できるようにするようなチャネルとして、MIAUその他の団体が機能する、というのは、悪くないかもしれない。現実的な話をすれば、消費者は、権利者を通じて合法的に公開することもできるし、話の通じない頭悪い権利者に当たった場合は、もちろんデータはくれてやらなくていいし、今まで通り権利者に黙って著作権侵害しつつ録画したビデオをうpすることも(法律上はともかく現実的には)できる。この時、名義は権利者でもデジタル化した人でもどちらでも良い。

「仮に」上手くいったとして、では過去の番組はキッチリ視聴できる環境を作りました、だから見たい奴は金払って見て頂戴、と言って、現在ほど見てもらえるとは考えにくい。結局のところ音楽も動画も代替財でしかなく、タダあるいは相当に安価で見られないのであれば見ない、という消費者は多いだろう。おそらく、復元したところでGyaoYouTubeのような広告モデルのかたちで公開せざるを得ないだろう。

もう一題。

現状の欠点は、損害が生じていないにも関わらず法律上はやはり違法とされてしまうという事態が生じている点で、これを考えたら米国人などが好むようなクリアな法制度の方が安心だし美しい。しかし安心で美しいかどうかはあまり重要な課題ではない。著作権制度の目的に即して考えたら、重要なのは、著作者が食っていける*1程度にコンテンツ消費が最大化されることである。

本来であれば、著作者の利益を害しないのであれば、著作権法第38条の営利を目的としない演奏等に関する規定のようなものが、インターネットの世界についても同様に存在すべきなのである。具体的には、営利を目的とせず著作権者が自ら公開するコストに見合う利益が認められない著作物について、公衆への提供を著作権の制限のひとつに追加しても良いはずだ。このデジタル化時代に、著作権法改正において著作権の制限の拡大は著しく遅れている。

そのような規定は、しかし現行法に単純に追加しただけでは、おそらく機能しない。その理由は、平成15年法改正で導入された損害額のみなし規定(114条III項)である。現行法では、公開しただけでそれが利益のもとであると見なされることになり、それでは実質的に非営利であっても、形式的には「利益にならない」かたちで公開されるという事態が生じることはなくなってしまう。

そう考えた時、クリアだが困難な法改正を目指すよりも、現状をより妥当な解として選択するというのは、正しい判断だと僕は思う。

上記のようなアイディアは、ほとんど権利団体の代表ばかりが集まっているような審議会では、議題として上がってくることも無かったことだろう。今の構成員の審議会でへたな結論を出させるより、我々一般ユーザー側の声がより大きくなるのを待って制度の枠組みを決めた方が良い。

いずれにしても、現実に著作権侵害がどうのこうのと言っている人間は、もちろん言行不一致はしていないはずだから、「ニコ動アカウント作ったら負けかな団」の一派である僕同様、ニコニコ動画は見ていないはずだし、YouTubeも見た事がないに違いない。アクセスしたらそれだけで著作権侵害動画のスナップショットが含まれていることは、一度アクセスすれば分かる=情を知るわけだから、二度、三度とアクセスするはずがない。もちろん動画のスナップショットである静止画にも著作権はあるのだから、「YouTubeにアクセスするだけで著作権侵害を助長している」と主張するダウンロード違法化賛成論者が、YouTubeにアクセスするはずがない。もちろん、静止画はまだ違法化対象ではないから問題ない、と主張するなら、今後音楽・動画以外の著作物について同様の違法化の動きがあった時には、自己矛盾しないためには違法化反対の立場を採らなければならない。

…って、こんなことを書いていたら自分のパブリックコメントが書けなくなってしまう(まだ書いてない!)。もったいないので↑は再利用することにしよう。

*1:不当に利益を侵害されない、という言い回しは、そもそも正当というのがあまり中立的な観念ではないので用いない。また重要なのは著作者であり著作権者ではない